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東京地方裁判所 昭和34年(ワ)3231号 判決

原告 昭和軸受株式会社

右代表者代表取締役 前田俊太郎

右訴訟代理人弁護士 永野謙丸

同 片岡千枝

被告 大一工業株式会社

右代表者代表取締役 寺町博

被告 寺町博

右両名訴訟代理人弁護士 竹内元三

同 大林清春

主文

一、被告大一工業株式会社は原告に対し、別紙目録記載第一並に第二の各宅地につき、東京法務局板橋出張所昭和三二年一一月一一日受付第三六九八九号を以て為した売買に因る所有権移転登記の夫々抹消登記手続をせよ。

二、被告大一工業株式会社は原告に対し、別紙目録記載第三の建物から退去して、物件目録添付図面表示の第一の宅地については九坪八合五勺、第二の宅地については九合の各その敷地部分を明渡せ。

三、被告大一工業株式会社は原告に対し、別紙目録記載第四の建物から退去して、物件目録添付図面表示の第二の宅地につき(4)の部分の三坪二合五勺の敷地部分を明渡せ。

四、被告大一工業株式会社は原告に対し、別紙目録記載第五の建物から退去して、物件目録添付図面表示の第一の宅地については二坪一合八勺、第二の宅地については一坪三合二勺の各その敷地部分を明渡せ。

五、被告寺町博は原告に対し、別紙目録記載第三の建物を収去して、物件目録添付図面表示の第一の宅地については九坪八合五勺、第二の宅地については九合の各その敷地部分を明渡せ。

六、被告寺町博は原告に対し、別紙物件目録記載第五の建物を収去して、物件目録添付図面表示の第一の宅地については二坪一合八勺、第二の宅地については一坪三合二勺の各その敷地部分を明渡せ。

七、訴訟費用は被告等の負担とする。

八、この判決は第二項乃至第四項及び第六項は担保を供せずして、第五項は原告において金五〇万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

理由

一、原告と訴外坂本紀吉間に昭和三二年一〇月三〇日別紙目録記載第一及び第二の各宅地並びに第四の建物につき原告主張の代物弁済契約が成立したことは、成立に争がない甲第一、二号証≪省略≫により明かであり、右各物件につき、右代物弁済契約に基き、原告主張の東京法務局板橋出張所昭和三二年一一月六日受付仮登記仮処分がなされたこと、並びに右各物件につき原告主張の同出張所昭和三三年一二月二五日受付右仮登記の本登記がなされたことは当事者間に争がない。

二、よつて、被告等の虚偽表示の抗弁(別紙二記載第二、一、)について判断する。被告等は仮に原告主張の代物弁済契約が成立したとしても、右は虚偽表示によるものであるから無効であると主張するが、右事実を認めるに足る証拠は何もない。

三、次に被告等は、原告主張の代物弁済契約は、昭和三二年一一月七日合意解除になつたものであると主張する(別紙二記載第二、二、)のでこの点について判断する。

本件に顕われた全証拠によるも被告等主張の合意解除の事実は到底これを認めることができず、せいぜい証人鉄恒次、同坂本紀吉の各証言に、被告本人寺町博尋問の結果から昭和三二年一一月七日開催された訴外東洋興産株式会社(坂本紀吉はその代表取締役)整理のための債権者総会乃至は、同日及びその後に開かれた債権者委員会において前記一において認定したように原告会社(原告会社は右訴外会社の大口債権者の一人であつた。)が代物弁済により取得していた前記土地、建物について一般債権者から右各不動産を一般債権者の債務の弁済に充てるため右訴外会社に返還すべきであるとの希望が提出され、右の案件が右委員会等において審議されたが、原告会社の承諾を得られなかつたため何等結論を得るに至らなかつたことを窺うことが出来るにすぎない。

よつて被告の右抗弁も理由がない。

四、果して然らば、原告は別紙目録記載第一及び第二の土地並びに第四の建物につき所有権を有し、且つ、右所有権の移転につき昭和三二年一一月六日受付の各仮登記の各本登記(昭和三三年一二月二五日受付)を経由したものといわなければならない。

五、被告等は、仮に原告が右第一、及第二の土地につき所有権を有するとしても、右各土地上に地上権を有すると主張する(別紙二記載第二、三、)ので、この点について判断する。

(一)(イ)訴外石山広栄が訴外坂本紀吉との間に昭和三二年三月一八日別紙目録記載第三の建物につき、被告等主張の代物弁済の予約をなし、同日被告等主張の様に代物弁済予約による所有権移転請求権保全の仮登記をなしたこと、(ロ)同年一〇月三一日右石山は被告等主張の様に訴外相互商事株式会社に前記代物弁済予約上の権利を譲渡し、同日右移転の付記登記を経由したこと、(ハ)右会社は同日所有者である訴外坂本に対し、右代物弁済予約完結の意思表示をなし、右建物の所有権を取得し、同日受付の所有権移転の本登記を経由したこと、(ニ)同年一一月九日被告寺町は右会社から売買により右建物の所有権を取得し、同日受付の所有権移転登記を経由したことは何れも当事者間に争がない。

(二)  被告等は、訴外坂本が訴外石山との間に別紙目録記載第三の建物につき前記代物弁済の予約を締結した際、右坂本は、将来石山が代物弁済により右建物の所有権を取得した場合には、同人に対し、右建物の敷地である別紙目録記載第一及び第二の各宅地上に地上権を設定する旨の予約をなした旨主張する(別紙二記載第二、三(1))が、証人坂本紀吉、同石山広栄の各証言共被告本人寺町博尋問の結果によつても右坂本と石山との間に被告等主張の様な地上権設定の予約が締結されたことを認めることができず、その他被告等主張の地上権設定の予約が成立したことを認めるに足る証拠はない。尤も被告本人寺町博の供述中には被告等主張の地上権設定の予約の存在を推認せしめるが如き供述部分が見られるが、右供述部分は右寺町の供述の他の部分と対比してにわかに措信できない。

(三)  被告等は、仮に明示の地上権設定の予約が認められないとしても、建物と土地とが同一所有者に属する場合において、建物のみを譲渡するときは特別の意思表示なき限り譲受人のために建物敷地につき地上権を設定する黙示の合意(予約)があると解すべきであると主張する(別紙二記載第二、三(2))が、被告等主張の様な場合において当然地上権設定の黙示の合意(予約)ありと解すべきでないことは、一般に土地及び建物が別個の取引対象として取引されていること、に照し明かであるのみならず、本件の場合においては前記建物の価格は借地権付きであれば昭和三二年当時の時価で少くとも二〇〇万乃至二五〇万円相当のものであるところ寺町博は右建物を一三〇万円で訴外相互商事株式会社から買受けたものであるから(以上の事実は証人坂本紀吉、同石山広栄の各証言を綜合して認めることができる。)右寺町の買受価格の点から考えても、被告等主張の様に地上権設定の黙示の合意(予約)が成立したものとは到底考えられない。上記の理由により被告等主張の地上権設定の事実はこれを認めることができない。

六、ところで、被告大一工業株式会社のため別紙目録記載第一及び第二の土地につき被告等主張の昭和三二年一一月一一日東京法務局板橋出張所受付第三六九八九号所有権移転登記がなされていることは当事者間に争がないところであり、右各登記は、右各土地については原告のため同年一一月六日受付代物弁済契約による仮登記仮処分がなされ、翌三三年一二月二五日右仮登記の本登記がなされている(このことは前記一において認定したとおりである、)から、右仮登記の効果として、右原告のためになされた所有権移転登記に後れるものといわなければならず、結局抹消を免れないというべきである。

七、次に被告寺町が別紙目録記載第三及第五の各建物を所有し、その敷地である別紙目録記載第一及び第二の各宅地のうち、原告主張の部分を占有していること、及び被告大一工業株式会社が右各建物を使用していることは当事者間に争がないところである。ところで被告寺町が被告等主張の様に別紙目録記載第三の建物の敷地上に被告等主張の地上権を有しないことは前記認定(五)のとおりであり、その他被告寺町の右敷地の占有権原について何等の主張立証がないから、結局同被告は原告に対し別紙目録記載第三及び第五の建物を収去してその敷地である原告主張の土地部分を明渡すべき義務があるものというべく、従つて又、前記各建物を使用している被告大一工業株式会社も右各建物から退去して右敷地を明渡す義務があるものといわなければならない。

八、被告大一工業株式会社が別紙目録記載第四の建物を使用していることは当事者間に争がない。ところで同被告が右建物を使用する権原、従つて又その敷地である原告主張の土地部分を占有する権原について、何等の主張立証がないから、同被告は原告に対し右各建物から退去して、右建物及びその敷地を明渡すべき義務があるものといわなければならない。(被告等は右建物は別紙目録記載第三の建物の一部で、従つて被告寺町の所有に属するものであると主張するが、右建物が原告の所有に属する独立の家屋であることは前記一において認定したとおりである。

九、なお、被告等は仮に被告等主張の地上権が認められないとしても、訴外石山広栄のため賃借権が設定されたと主張するが、上記地上権の存否について判断したのと同一理由により、右主張はこれを認めることができない。従つて右賃借権の存在を前提とする被告等の買取請求の主張は爾余の点についての判断をまつ迄もなく理由がない。

一〇、以上の理由により被告等に対し、主文第一乃至第六項同旨の判決を求める原告の本訴請求は全部正当として認容すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用し主文のとおり判決する

(裁判長裁判官 近藤完爾 裁判官 池田正亮 裁判官斎藤次郎は転任につき署名捺印すること能はず 裁判長裁判官 近藤完爾)

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